今週のお題「試験の思い出」
父がとった行動に意表を突かれました。私の受験の付き添いのために来てくれたはずでしたが…。
大学受験のときのことです。母ではなく父が付き添いでついて来てくれました。おおよそどこの家庭でもそうであるように我が家の育児を担い手は母でしたから、付き添いが父であることを私は意外に感じました。
島根県に住んでいた私達にとって関東の大学を受験することは一大事であり、遠方につき受験は二泊三日の旅行となりました。関東へは家族旅行で数えるほどしか行ったことがありません。おのぼりさんの状態でした。それは私だけでなく父もまた同様でした。
受験当日、父は大学の試験会場の入口まで送ってくれました。これから試験が始まる。そう思って緊張している私に向かって父は明るくこう言いました。
「じゃ、頑張ってね。お父さんはこれから銀座にコーヒーを飲みに行ってくるから」
終わる時間に迎えにくる、そう言い放つと父は嬉しそうに去って行きました。
付き添いで来たんじゃなかったの?私の疑問は声になりませんでした。他の受験生は親御さんと共に入場していきます。途端に不安になりました。ひとりで大丈夫かな…。しかし父は銀座に向かってしまって、もういません。しかたなく独りで会場に入りました。
お昼休み、知り合いがひとりとしていないので独りでお弁当を食べました。周りの受験生たちは親御さんに励まされながらご飯を食べています。それを見て思いました。よく考えたら会場に親がいてやってもらうことはありません。そもそも受験はひとりで受けるものだし、子供じゃないんだからご飯はひとりで食べれるし、体調だって悪くないのですから。ただ、私がウンウン悩みながら試験に臨んでいる最中に父が楽しく銀座で遊んでいるのかと思うと、どうにも恨めしかったのです。
試験終了時刻に予告どおり父は迎えに来てくれました。銀ブラ(死語)を楽しんだ父はご機嫌でした。笑顔の父に私はついに訊けずじまいでした。
本当は銀座に行きたくて付き添いに来てくれたのですか?そうなんですね、お父さん。
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